跳べよ甲斐犬

平成7年に甲斐犬愛護会より出た本です。今ではなかなか手に入りづらく、古書店やオークションにもなかなか出ません。

この頃あまりの出品のなさに諦めていたのですが、先日、ふと天啓のように、オークションサイトで甲斐犬を検索してみました。
すると、ちょうど出品されたばかりの「跳べよ甲斐犬」が見つかりました。

これは絶対手にいれなくてはいけない。と、結構な値段まで他の落札者と競り合うはめになってしまいましたが……(TT) 何とか、競り落としたのでした。

それが今日手元に届き、びっくり。

とある、愛護会の大重鎮の方の持ち物だったようでした。
私はご本人にお会いしたことはありませんが、歯に衣を着せない厳しい審査、甲斐犬に対する審美眼は、先生の話や昔の会報から伺い知れていました。また、私の先生の師匠の、さらに先生と懇意であった方でもありました。

甲斐犬の世界は、いろいろな犬の見方があります。その理由は、「甲斐犬の姿を秘して外に出さないことにした」初期の姿勢から続き、その間にいろいろな犬が現れて、「これが甲斐犬だ」と声高に叫ぶ人がいても、何を基準に正しい姿を見ていいか分からない人がほとんどだったからだろうと推察します。また、犬事体も、他の犬種に比べていろいろなタイプがいる(大きく分けた鹿・猪のことではありません)というのが理由かもしれません。

甲斐犬に詳しいとある方が、「どこから入るかによって追いかける甲斐犬の姿は違う」とおっしゃっていて、なるほどなあと思ったことがあります。例えば発見当時の鹿犬型甲斐犬をとっても、「百」から入るか、「ダン」から入るかでも全然違うでしょうね。だとしても、「甲斐犬らしさ」を多く持った犬でないとやはり甲斐犬ではないのです。

少し話がそれてしまいましたが、今回の本の元の持ち主の方は、私の先生が学んだ系統の甲斐犬を好んだ方だったということです。

数々いらっしゃる先人達の中から、その方の本が手元に来たことに意味を感じずにはいられませんでした。お会いしたことはありませんが「おい、お前、本当の甲斐犬の姿を見失うなよ」と言われている気がして、しばらくじっとお名前の捺された印を見ていました。

肝に銘じます。

跳べよ甲斐犬” に対して5件のコメントがあります。

  1. 中田三和子 より:

    はじめまして
    「NO LIFE NO ANIMALS」で夜雲号・露虎号と犬舎主さまとの楽しい生活を拝読しながら、我が家の初めての甲斐犬との関わり方を模索しておりました。この度天総犬舎様のHPをお訪ねし、昨年6月からの犬舎様及び夜雲号・露虎号に起きた様々な変化に加え新たに千代鶴号というメンバーが加わったことを知って、驚くとともに天総犬舎のこれからの発展が益々楽しみになってきました。
    私はてっきり夜雲号と露虎号の仔犬が生まれていると思っておりましたが、露虎号はまだお母さんになるには早すぎるのでしょうか?
    ヤフオク!で『跳べよ甲斐犬』を落札されたのは犬舎主さまでしたか!
    私もウオッチしてはいたのですが、あまりに入札金額が高くなっていったので途中で諦めました。
    でも最も相応しい方の元へ届いて、旧持ち主様も本も喜んでいることと思います。私もとても嬉しいです。
    甲斐犬に関する古書は本当に見つけるのが大変で、価格も高額で入手しにくいですね。昨年古書店で『甲斐犬現勢』を見つけましたが、数十万円という驚くべき価格でした。
    甲斐犬のスタンダードを決めるにはいろいろ意見の対立があって、昭和期には甲斐犬についての本の出版も制約された時期もあったとか。残存する資料が少なければ価格が高騰するのも仕方ないですね。
    甲斐犬の作出、戻し交配などについてもお考えをお聞かせいただけると嬉しいです。
    長々失礼いたしました。ブログ、これから楽しみに拝読させていただきます。

    1. 天総犬舎 より:

      中田さま

      コメントありがとうございます。そして、ブログの時から見て頂いていたとのこと、ありがとうございます。
      ゆるゆるに家庭犬として飼っていた夜雲ですが、やはり都心に近いマンションでは彼には窮屈に思えてきて移住前提で露虎を迎えておりました。
      それからあれよという間に移住決定、犬も3頭に増え、夜雲の子もできてと一気に物事が進んだ感じです。

      中田さまもヤフオクウォッチされていたのですね。
      本当に、甲斐犬の古書はなかなか出てこず、山梨県の古本屋を時間を見つけて尋ね歩いたりもしているのですが、山梨県の古本協会の方にも「あれは出てこないし、出ても東京に行ってしまうことが多いよ」と言われました。なので、結局ヤフオクか神田を歩くのが早そうです。

      甲斐犬のスタンダードについていろいろな意見があることをご存じなのですね。
      であれば、きっとその舞台裏にも通じていらっしゃるのではないかと想像します。ここでは書きませんが、そのために正しい姿が分かりにくくなっているのですよね。

      戻し交配のお話が出ましたので、露虎は戻し交配をしようと思っています。ダイレクトに夜雲とかけるより、一度露虎のほうをしっかり固めてからがいいと判断しました。
      先生や大先輩方におんぶに抱っこの状態ですが、少しずつベールに包まれた「甲斐犬のスタンダード」を形にしていけたらと思っています。
      今後ともよろしくお願いします。

  2. 中田三和子 より:

    お忙しい中、ご返信いただき恐縮です。
    私はいつか甲斐犬を飼ってみたいという思いを実現したいために、甲斐犬に関する知識もなく、親犬を見ることも兄弟犬を見ることもせずただ「穏やかな性格の飼いやすい牝犬」という条件だけで犬舎様にお任せで仔犬を届けていただいたお恥ずかしい飼い主です。
    露虎号は戻し交配をお考えなんですね!
    実は我が家の牝甲斐犬が昨年11月に2歳最後のヒートを迎え、リスクの少ない初産には今を逃してはいけないと思いまして作出犬舎様に種牡をご紹介いただきたい旨ご相談いたしました。
    当犬舎様は父犬との交配をご提案され、その時点で私は「戻し交配」という言葉も知らず意味も全く解らなかったのですが、近親交配! 潜性遺伝子の発現! 遺伝病!といった考えが頭の中を駆け巡り、即お断りしたという経緯がありました。
    そのころ偶々ある会合でお会いした動物行動学者の方にお伺いしたところ、近親交配の第一世代には顕性の優れた遺伝子をもつ仔犬が生まれる可能性もあるが、親犬のもっている潜性の負の遺伝子が発現するリスクがかなり高くなり、発現しなくても潜在的に負の遺伝子をもつ個体が生まれるのでその次の世代の組み合わせを慎重にする必要があるとのことでした。
    我が家の甲斐犬の交配を考えて牡犬所有者様とお会いするうちに、甲斐犬愛護会で高位受賞犬の子供にも遺伝的な失格要素をもつ犬が生まれていること、種牡を業となさっている方の中に遺伝的疾患をもっているにも拘らず平然と種牡として交配を請け負っている方がいることを知り暗然とした気持ちになりました。
    高齢で気概に欠ける私には到底無理ですが、天総犬舎様にはぜひ原種甲斐犬の特質を備えた容姿と気質を併せもった血を、将来へ繫げていただきたいと思います。
    ご存じかも知れませんが、古書を探すには「日本の古本屋」というサイトが便利です。日本各地の古書店の在庫から検索できます。『甲斐犬現勢』もここで見つけました。勿論高額すぎて買えませんでしたが。

    1. 天総犬舎 より:

      中田さま

      コメントありがとうございます。
      甲斐犬のことをとてもよく勉強していらっしゃるのですね。家庭犬として飼っている方が戻し交配のことや遺伝子のことまでご存じなのは珍しいと思います。
      ご愛犬の出生犬舎様も、父犬との近親という最も強い近親を進めてくるのは最近では珍しいです。
      古くからやっていらっしゃるところなのでしょうね。
      浅学ですが、仕事でも日本犬のことを調べる機会がありましたので他の天然記念物5犬種についても歴史や交配について調べたことがあります。
      昭和初期、発見から天然記念物登録~戦前までは本当に血統書に出てくる犬の数が少ない(=近親で同じ犬を何度も使っている)犬ばかりでした。
      それだけいい犬が少なかったということもあるでしょうが、血統を固めるという考えが当たり前にあったようです。その後のリスクについて書かれていることはまずありませんが、日本犬保存会のある方はやはり組み合わせを間違えると弱い仔犬が出ると仰っていました。

      甲斐犬の作出に係る近親交配のリスクや遺伝的疾患を持つ種牡などについては、ここでは何も申し上げられませんが、中田様が恐らく感じていらっしゃるように、一筋縄でいかないほど在りし日の甲斐犬の姿を再現するのは難しそうです。
      私の遥か先を行く先生も先輩方もまだ道の途中だと仰います。
      一度「これか」と掴みかけたと思っても、その姿が知るほどにまた煙に巻かれるような、本当に甲斐犬は不思議な犬です。
      でもそれが面白いというか、生きているうちに本物を見られたらいいなあと思っています。

      「日本の古本屋」の件ありがとうございます。
      私もしょっちゅうウォッチしているサイトで、甲斐犬関連はここではありませんが日本犬の本はかなりこちらで揃えました。
      犬の先生や仲間のところを総括するとかなり本も集まるので、見せてもらったり貸して頂いたりしています。
      昔の本は結構、間違い表記やあえての嘘も多いので何冊か見比べると時代背景も想像できて面白いです。

  3. 笠原 良治(カサワラ リョウジ) より:

    初めまして、お二人の甲斐犬に対する考えを拝読し益々甲斐犬の持つ内面に触れたくなりました。13年連れ添った秋田犬を亡くし,年齢・体力的なこと、イノシシが自宅裏の畑に出没する事などから甲斐犬を飼いたい思い、4月末から甲斐犬一筋50年の方にご指導頂いている者です。「戻し交配・近親交配」についての考え方、ギャンブル的要素を感じながらも私なりに受け止めました。
    お二人には当たり前の事だと思いますが、新入りの飼い主として”座右の銘”とする文面がありますので、書かせていただきます。
    「我々は心を冷静にして本来をわきまえなくてはならない。犬を飼う本意は世の中の汚らしさから脱却することにあったのではなかったか。当会の会員だけは、清い心の持主の集まりであって欲しいものである。名誉欲や物欲の禍の中でも、あなたの愛犬は澄んだ目で飼主をじっと見つめている。その目の中に犬を飼う者の幸福を見出すことができると私は信じている。本末転倒の虚の脚本を知らず知らずのうちに書いてはならないのである。」会報第48号より抜粋

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