遺伝子検査とPRAの話④（とりあえず最終回）
ハプログループとハプロタイプについて
ちょっと空いてしまいましたが、マニアックな話を続けます。ハプログループとハプロタイプって何？というお話です。
日本語的に、分類はハプログループ＞ハプロタイプ かと思いそうですが、順序的にはハプロタイプ＞ハプログループです。なのでまず、ハプロタイプの話から。
染色体は、男女の親双方から1本ずつ受け取った2本が対になっています。これは動物によって数が違い、人間では23対46本、犬では39対78本。このうち、どちらか片方の親からだけ受け継いだ遺伝子の並びを「ハプロタイプ」と言います。
ミトコンドリアゲノムの場合、母方からしか受け継がれないためハプロタイプは母方のもののみとなります。このハプロタイプを分類したものがハプログループ。ヒトの世界でも犬の世界でも、祖先が地球上のどこで誕生し、どのように移動してきたのか、ルーツを知る手がかりになると考えられています。
ヒトの場合、ミトコンドリアゲノムが疾患に関係する
大阪大学の岡田教授らの研究によると、日本人2000人のミトコンドリアゲノム配列を調べた結果、特定の疾患とミトコンドリアゲノムの配列に関係性が見られたそうです。
↓参考
両親から受け継ぐ核ゲノムだけではなく、母親から受け継ぐミトコンドリアゲノムも疾患に関係するのだとしたら、一定のハプログループに一定の病気が出やすいという説が成り立ちます。
では、犬はどうなのか。犬の場合も同様に、ミトコンドリアゲノムから祖先のルーツをたどることができます。ということは、ヒトと同じように犬もミトコンドリアゲノムによって特定の遺伝子疾患を受け継ぐという仮説が成り立ちます。
特定のハプロタイプにPRAキャリアが見られる…（↓ココ仮説です）
数少ないサンプルを見た結果ですが、今のところハプロタイプ: A381、ハプログループ：A1aの犬達にPRAキャリアが多く見られました。ちなみにこのハプログループ群、ジャーマンシェパード、ドーベルマン、ダックスフントに多いタイプなのです。PRAがもともとダックスに多い遺伝病だということを考えてもミトコンドリアゲノムとの関連性を気に掛けずにはいられません。
ちなみに、シェパードやドーベルマンは比較的近年（19世紀頃？）人為的に交配で固められた犬種ですが、ダックスフントの歴史はもっと古く、16世紀頃にはいたらしいです。ということは、もともとダックスフントの系統が持っていたミトコンドリアゲノムにPRA遺伝子があり、そのミトコンドリアゲノムを持つ他の犬種へ広まったと考えてもおかしくはない…というのが仮説です。仮説です。（2回言う）
ミトコンドリアゲノムの疾患遺伝は100％ではない（これは確定）
じゃあ母系にPRAキャリアやリスクがいたら、必ず疾患が遺伝するのか？ と心配になるかもしれません。その裏付けは、インスタでご協力頂いた人の情報であっという間に解決しました。このパターンがいるそうです！
キャリアー母犬―A
クリアー母犬ー祖母ーA
Aは同じ犬で、母系です。でも、そこからクリアとキャリアが出ているそうです。こうなると今度は「ミトコンドリアじゃなく、PRAは核ゲノムの遺伝じゃないの？」という疑惑ももちろん出てきます。ですが、犬種を横断して発症している場合、核ゲノムよりミトコンドリアゲノムの方が可能性が高いとは思うのです。
でもこれはあくまでも素人の考察なので、PRAの遺伝の可能性としてはこんなパターンがあります。
1.核ゲノム遺伝。両親から半分ずつ受け継ぐ
2.ミトコンドリアゲノム遺伝が引き起こす核ゲノム変異（PRA変異を引き起こしやすいミトコンドリアゲノムがあり、それが核ゲノムを変異させて遺伝）
3.核ゲノム遺伝が引き起こすミトコンドリアゲノム変異（2の逆パターン）
個人的に一番ありそうと思うのは2です。本当は「ミトコンドリアゲノムだけの遺伝」という可能性もありましたが、前述の情報でそれは消えました。すごい！情報大事！！
そして、ということは、「甲斐犬の多様なハプロタイプの中の特定のタイプを交配から外さなくてもいい」んです。血統が守れる！
※ちなみに情報をくれた方の甲斐犬はハプログループA1b、ハプロタイプA361/409/611です。うちにもこのタイプはいて、すべてクリアでした。
引き続き情報募集しています
というわけで、もしもおうちのご愛犬の遺伝子検査をすることがあったら、ハプロタイプ、ハプログループ、クリア・キャリア・リスク、もしわかるなら両親犬のクリア・キャリア・リスクも教えて頂けるとより交配の危険度を減らしていくことができます。
犬舎・個人問いません。教えてくれた方でご希望なら、収集した情報を定期的に共有します。（特に交配考えている人はぜひ）
※ナーバスな問題だと理解しているので、個人情報や犬舎など伏せていただいて大丈夫です。ただ、悪戯をふせぐために結果ページのスクショは送ってほしいです。
検体の母数が増えれば、PRAになりやすいハプロタイプも分かるかもしれません。また、ミトコンドリア由来ならもしかしたらPRA遺伝子を消す近道が見つかるかもしれません。（仮説ね、仮設！でも進歩はあっても後退にはならない取り組みのはず。）
協力してくださる方はtensou★kaiken.life まで「遺伝子検査」のタイトルでご連絡ください（★を＠に変更）
これから検査してみたい人はこちらからだと50＄オフになるのでご活用ください。
Embark遺伝子検査（アメリカに検体送る検査。分からないことがあったら聞いてください）
いつか、最後まで健康に飼い主と犬生を全うできる甲斐犬ばっかりになりますように。（もちろん理想はすべての犬が…）
