獣の領域・獣の時間

獣の時間

犬舎の周辺は低い山が多く、イノシシやシカと遭遇することもめずらしくありません。特に、明け方や日暮れ以降、そして小雨の降る薄暗い日は遭遇率が上がります。

夜明け直後や夕暮れに行くことが多い犬の散歩では、必然、遭遇率が上がってしまいます。

だんだん、彼らと会いやすい場所も分かってきて、特に夕暮れ以降はここは行かない方がいいかなという場所があります。
ところが、先日、日暮れ直前にうっかりそういう場所を歩いてしまいました。

池の周囲を巡る舗装路で、近くに民家もたくさんあります。ただ、田んぼが広がっており、田んぼの奥はもう小高い丘のような山。

そこを歩いているとき、突然犬達がピタリと立ち止まり、低く構えました。
ネコかな?と思いましたが、うちの犬達は猫相手に低く構えたりはしないのです。

イノシシの家族連れだった

立ち止まって見ていると、すぐ目と鼻の先にある小さな畑から何かがガサガサッと出てきました。やな予感。

どんどん濃くなっていく宵闇の中に現れたのは、イノシシの群れでした。4~5匹いたうちの2頭は大きく、残る2~3頭はまだ小さいようです。家族連れのようでした。

わずか2~3mの距離で出会ってしまったものの…。別に慌てはしませんでした。こちらがじっとしていればイノシシが逃げて行ってくれるので、この時も犬達をしっかり押さえ、じっと待っていたのです。が。

一番大きいイノシシが、こっちに向かって仁王立ち!

今回は、リーダーらしき大きなイノシシがなぜかこっちに向かって威嚇してきました。え!?なんで!?
こうなると犬達も臨戦態勢です。この時いたのは夜雲と露虎。露虎はイノシシに向かってワンワンと吠え続け、夜雲は無言で尾を立てて、やんのかい、とばかりに睨みつけています。

ちょ、待、ちょ、待。

相手のイノシシは70kg以上ありそうなでかさなのです。こんな暗くなる中で、もし犬とやり合い始めたら犬もただではすまないかもしれません。ついでに人間もとばっちりを受けそうです。

一瞬で頭の中をいろいろなことがよぎりました。

もしイノシシが襲い掛かってきたら……

まず、犬達のリードが絡まないように外して、近所の家に助けを求める?
知り合いの猟師さんに連絡?(日暮れだからもう発泡できないし、ここはそもそも銃猟禁止区域だ!)
ナイフ持ってきてたらよかった!(ナイフでどうしようってんだい、我ながら)
近くにイノシシの頭をぶんなぐれるような丈夫な棒かパイプはあるかな?

最適解が分からないのですが、結局犬と一緒に戦うしかないかもしれない……と思い始めた、そのとき。

ようやく、大きなイノシシがくるりと背を向けて仲間の後を追っていってくれました。どうやら、仲間が逃げるまで足止めをしていたのかな。そんなことしなくても追いかけないよ(TT)

里山における人と獣の世界の境界

今回の遭遇は、完全に自分たちが「獣の時間」に「獣の領域」に入ってしまったから起きた出来事でした。(しかし奴らが荒らしていた畑は人間のものなんだけど…)だからイノシシも若干強気だったような気もする…。

昼間の山道、あるいは人間の住む場所へ出てきた獣は、サル以外はもっと遠慮がち。里山における人と獣の境界線は季節により、時間により曖昧に伸縮していて、その空気を読めないと互いに危険を冒すことになるのだなあ…と思ったのでした。