歴史

甲斐犬は、山梨県の南アルプス山麓を主な原産地とする日本土着の犬です。
特に有名なのは芦安村ですが、大正時代頃には平林村、西山村、上九一色村、宮本村、西保村など、交通も至難だった山間の僻地に生息し、カモシカや熊などの猟に使われていました。大正13年、甲府の獣医師である小林承吉氏が宮本村へ猟で怪我をした犬の往診のために出かけた際、珍しい虎毛の犬を発見したのが甲斐犬が世に知られることになったきっかけです。

ところが、昭和5年、小林氏がこの犬のことを雑誌に紹介するや、他県から甲斐犬を買いに訪れる人が後を絶たず、宮本村の甲斐犬はほぼ絶滅したそうです。(この時、宮本村とその隣にある西保村にいたのは猪型甲斐犬でした)

その後、甲斐犬の保存のために小林氏は県内の有力な愛犬家に協力を仰ぎ、甲斐犬愛護会を発足。初代会長安達太助氏は就任わずか2ヵ月で転勤となり、2代目の今井新造氏の時に会員総出で行った調査により、よりすぐれた性能の鹿型甲斐犬を発見。これが秋田犬に次ぐ2番目の日本犬としての天然記念物になりました。

●特徴

険しい山岳地帯を駆けまわるのに適した体は中型犬の中でも小柄で、かつては「中小型」とも表現されていました。強いジャンプ力を生む後肢は飛節が深く、耳は大きく、他の日本犬に比べると首が長く、体は100:100の箱型。遠目にそのシルエットを見ると、ちょっと犬っぽくなくて「なんだあの生き物?」と思うことがあるような野性的な犬です。

また、大きな特徴は種族としての虎毛で、他犬種に見られる赤、白、胡麻、灰などの毛色はありません。甲斐犬の虎毛は中虎毛、黒虎毛、赤虎毛の3種類に大別され、その虎毛も成長や換毛に合わせて変化する味わい深いものです。

●大きさ

発見当時の甲斐犬は39.5㎝~45.5㎝だったと記録に残りますが、現在は全体的に大きくなってきており、甲斐犬愛護会が定める標準は体高40~50㎝。柴犬よりやや大きく、四国犬や紀州犬よりは小柄で、女性でも飼いやすく、それでいて野性味に富んだ飼い応えが魅力です。

●性格

性格は神経質で一代一主性が強い。これだけ聞くと飼いづらいと思うかもしれませんが、神経質とは周りの変化によく気付くこと。怪しい物音や人への反応が的確で、飼い主の心情を悟るという意味の繊細さももっています。

また、一代一主性ですが、飼い主以外には噛みつくということではありません。(そのように育てればそうもなりますが……今の時代でその性格では犬が不幸になるのでおすすめしません)例えばうちの犬たちは、他の人にもお愛想をしながら、後ろに目があるかのように飼い主をいつも見ています。もらわれていった先から脱走し、何百キロも走って帰ってきたというエピソード、主人が死んだ途端に食事を食べなくなって後を追うように死んでしまったエピソードなども昔はざらにあったようです。

社交的な面もある程度は持ち合わせながら、心の中では飼い主と他の人に一線を引いている、という表現が近いように思います。

また、頭が大変よく「会話が通じる」と感じることが日常のシーンでも多々あるのも共に過ごすうえで楽しいことの一つです。
自分でよく考え、気が進まないことは聞こえない振りをする、目的を達成するまで驚くほどの粘り強さを見せる、人の行動をよく観察しており、いたずらの痕跡を隠すなど、イラリとすることもありますが、その5倍は感心したり驚いたりすることの方が多い犬です。